私家版ライナーノーツ「布施明がバカラックと会った時」(B面)
7. (THEY LONG TO BE) CLOSE TO YOU
「何故あなたがそばにいると、鳥たちはどこからともなく現れるのだろう?
僕と同じように、あなたのそばに近づきたいんだろう」
街を歩く男たちだけでなく、大空を飛ぶ鳥や夜に輝く星までもが近づきたいと思うような魅力的な恋人。その理由は、君が生まれた時に天使たちが理想の女性を作り出そうと決めたからに違いないと歌うロマンチックな作品。
初出はアメリカの俳優リチャード・チェンバレンのシングル「ブルー・ギター」(1963年9月)のB面。
1970年にはザ・カーペンターズがシャッフル・リズムのポップなアレンジでカバーし、全米4週1位を記録した。
布施版では、少しテンポをおとしたジャズ調のバラードとなっている。
なお、カーペンターズのアレンジを参考にした、ややアップテンポなバージョンがライブ盤「日生劇場の布施明」('71)に収録されている。
8. RAINDROPS KEEP FALLIN' ON MY HEAD
「雨粒がぼくの頭に降り続けている。
まるでベッドから足がはみ出してしまう人のように、何もかもしっくりこない」
自分の頭の上に雨が降り続け、なにもかもがしっくりこない。怠けている太陽に文句を言っても雨はやまない、と現状を嘆きつつも、自分はこんな憂鬱に負けたりしない、幸福はじきにやってくるに違いない、と歌う力強く前向きな作品。
実在したアウトロー、ブッチ・キャシディとサンダンス・キッドを描いた映画「明日に向かって撃て!(Butch Cassidy And The Sundance Kid)」の挿入歌で、歌唱はB. J. トーマス。
劇中ブッチとサンダンスの恋人エッタが自転車に乗るシーンで使用されている。
公開と同時期(1969年10月)にシングルが発売され、全米1位4週、年間4位を記録している。69年度アカデミー歌曲賞にも輝いた。
9. THIS GUY'S IN LOVE WITH YOU
「この男が見えるだろう、君に恋してるこの男が。
そう、ぼくは恋をしている、こうして君を見つめている」
知り合って間もない女性に恋した主人公の胸の高まりと不安を歌った作品。
サビでは思い切ったように「君の愛が必要だ、君もこの男が好きだと言ってくれ」と歌い上げるものの、最後にはくじけたように「そうでないなら死んでしまおう」ともらすのが微笑ましい。
初出はハーブ・アルパートのシングル(1968年5月)。全米1位。
69年には、ディオンヌ・ワーウィックが「This Girl’s In Love」としてカバーし、全米7位のヒットとなった。
10. I SAY A LITTLE PRAYER
「目を覚まして、ひげをそり支度する前に君の幸せを祈る。
髪をとかしながら、何を着ようか考えつつ君の幸せを祈る」
歌いだしの、日常のふとした瞬間に恋人の幸せを祈るという慎ましい歌詞と、サビの「あなたを一生愛しつづける、ふたりでいることが運命なんだ」という情熱的で激しい歌唱との対比が見事な作品。
初出はディオンヌ・ワーウィックのシングル(1967年8月)。全米4位。
日本では2003年に放送されたドラマ「大奥」のエンディング・テーマに使用され、日本の女性アーティストの kazami が歌っていた。
11. WINDOWS OF THE WORLD
「世界中の窓に雨が降り注いでいる。
懐かしい陽の光りはどこへ行ってしまったのだろう」
雨雲に覆われて陽の光が届かない暗い世界とその悲しい情景を淡々と描きつつ、ラストでは陽の光を取り戻すために僕達にできることがあるはずだ、と確かな希望を歌う味わい深い作品。
2番の歌詞で「少年が大人になると、いつ国が自分たちを(兵士として)呼び出すのだろうかと考えるようになる」とあるように、ベトナム戦争下のアメリカの世相が色濃く反映されている。
初出はディオンヌ・ワーウィックのシングル(1967年7月)。全米32位。
12. WALK ON BY
「もし僕が街を歩いているのを見かけて、君が声をかけたら僕は泣いてしまうだろう。
だから、黙って通り過ぎてくれ」
恋に破れて打ちひしがれつつも、相手に涙を見せないことが唯一残った愚かなプライドだと悲壮な決意を歌う作品。
サビで繰り返される「通り過ぎてくれ(立ち止まらないで)」という歌詞が逆説的に恋人への強い思いを感じさせる。
初出はディオンヌ・ワーウィックのシングル(1964年4月)。全米6位。
註:本記事内の歌詞の日本語訳はすべて管理人によるものです。